関節鏡手術とは?
股関節鏡手術は正式には股関節鏡視下手術といいます。股関節鏡視下手術とは股関節に対して行う、関節鏡を用いた手術のことです。現在、関節鏡の手術は膝や肩を中心に発展しており、小さなカメラを関節の中に入れて、そのカメラの映像を見ながら関節の中の疾患を治す侵襲が少ない手術方法です。低侵襲である故に、スポーツ選手や早期社会復帰を望む患者様によく用いられています。 東京医大整形外科では、膝関節や肩関節と同様に「股関節」に対しても関節鏡手術を行い、股関節痛に悩む患者様の治療を、関節鏡を用いて積極的に行っています。手術はスポーツ選手に限らず、できるだけ小さな侵襲での手術を望む患者様全員に対して行っています。
股関節鏡手術の特徴
「股関節」は膝関節や肩関節と比べ体の深い位置にあること、そのスペースが狭いことなどを理由に関節鏡での治療が困難であるとされてきました。しかし、手術技術の発達や手術器具の改良により、下肢に適切な牽引力をかけながら股関節の中の観察や処置がスムーズに行えるようになり、近年、欧米を中心に股関節鏡視下手術は飛躍的に発展してきています。当グループではカナダにあるウエスタンオンタリオ大学(University of Western Ontario)・ファウラーケネディスポーツメディスンクリニック(Fowler Kennedy Sport Medicine Clinic)と連携して、積極的に股関節鏡手術の技術を取り入れ、現在、股関節痛に悩む患者様の治療を関節鏡にて行っています。
治療の対象となる疾患名
股関節唇損傷/股関節軟骨損傷/変形性股関節症/股関節遊離体
※フェモロアセタブラーインピンジメント/ペルテス病や骨頭すべり症後の変形遺残/股関節内腫瘍/臼蓋形成不全症 など
股関節鏡手術の実際
当整形外科では「2ポータル法」と呼ばれる手術方法を選択しており、股関節鏡手術は基本的に直径4ミリの関節鏡を挿入するだけの小さな皮膚切開と、手術操作をするもうひとつの同サイズの皮膚切開との2か所のみで施行しています。関節鏡にて股関節の中を観察し、損傷部位の修復や再建を行っています。対象となる疾患は、股関節唇損傷・股関節軟骨損傷・変形性股関節症・股関節形成不全症・関節内遊離体・股関節脱臼骨折(外傷)後の関節唇損傷・股関節内腫瘍など、股関節内に原因をもつ疾患のほとんどに適応があります。また、2003年にスイスのグループが「フェモロアセタブラーインピンジメント(Femoroacetabular impingement, 以下FAI)」という概念を提唱して以来、このFAIに対する股関節鏡視下手術が世界中で行われるようになり、当グループにおいてもFAIに対する股関節鏡視下手術の手術件数は年々増加しています
股関節鏡手術のための検査
股関節鏡視下手術は股関節の中にある「股関節唇損傷」に対して行うことが多く、その診断には外来での医師の診察に加え、単純レントゲン検査、CTによる検査、MRIによる検査などが必要となります。なかでも最も正確に股関節唇損傷を診断するには股関節の中に造影剤を注入してからのMRI検査が有効です。同時に、股関節の中に「麻酔薬」をいれることで、その注射の後に痛みの軽減を確認し、患者様の痛みの原因が股関節の中にあることを診断することも出来るため、股関節唇損傷の診断にはもっとも有用な検査であるとわれわれは考えています。
①単純レントゲン:
レントゲンでは股関節の骨形態異常や骨盤の傾きなど評価します。場合によっては腰椎から股関節痛が発生している可能性もあるため脊椎の撮影などを行います。軽微な骨形態異常がFAIを引き起こすことも危惧されているため、正確なレントゲン撮影と評価が必要です。
②CT:
CTはレントゲン以上に詳細な骨形態を調べることが可能となります。当グループではCTにて調査した骨形態を3-Dに再構成し、その動きをシミュレーションすることで患者様ひとりひとりが股関節のインピンジメント(衝突・挟み込み)が発生しているかどうか様々な動きにて検証をします。
③MRI:
上記のように、股関節に造影剤をいれたあとに、股関節唇損傷を評価するのに特別にプログラミングされた放射状MRIを撮影します。この放射状MRIは股関節唇の軽微な損傷も観察可能であり、手術前の関節内の病変の評価には大変優れています。 これらの検査は外来にて施行可能です。股関節内に注射をいれる注射後に違和感や疼痛を自覚する患者様もいるため、希望者には1泊入院による検査も行っています。
フェモロアセタブラーインピンジメント
フェモロアセタブラーインピンジメント(Femoroacetabular impingement、以下FAI)は2003年にスイスのGanzらのグループによって提唱された概念で、図のように股関節の受け皿となる骨盤の「臼蓋」や、大腿部の骨である「大腿骨」の骨形態異常が、繰り返しの外力によって股関節を痛めることが明らかになっています。インピンジメントには「衝突」や「挟み込む」という意味があります。
以前は、「異常がない股関節痛」や「原因がない変形性股関節症」と言われていた患者さんの中にも数多くのFAIが含まれていると言われています。この骨の形態異常は軽微であることが多く見逃されやすいこと、FAIという概念が日本では十分に浸透していないことなどから、原因がわからずに困っている患者さんも多くいると考えられています。 当グループではFAIに対して股関節鏡視下手術を第一選択として治療を行っています。「インピンジメント」によって痛む「股関節唇」を中心にその治療を最少侵襲である関節鏡視下に行い、その損傷の程度や範囲、患者様のスポーツ活動などのバックグランドに応じて患者様に合った手術方法を選択しています。